東北大学 大学院情報科学研究科

研究課題 「学際的視点からの情報教育研究環境の構築」
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研究組織

  曽根 秀昭(応用情報科学専攻・教授)
  磯野 邦夫(システム情報科学専攻・助教授)
  酒井 正夫(情報基礎科学専攻・講師)
  篠澤 和久(人間社会情報科学専攻・助教授[本報告書文責])

目的と成果

 教育研究を通じて、情報社会が直面する諸問題への認識を深め、その問題解決に参画していく素地を涵養することは、本研究科の基本理念のひとつである。本プロジェクトの目的は、そのための教育カリキュラムをどのように構成すべきか、また、その際に必要とされる教員スタッフ間の(専攻横断的な)協力体制と研究環境をどのように構築すべきか、にあった。

 現代の情報社会は、情報技術なしには存立しえない。そこで緊要となるのは、つぎの視点である。すなわち、情報技術の開発者・研究者であれ、その技術を享受する一般市民であれ、情報社会において等しく求められるのは、技術が社会生活に及ぼす影響を黙過しない柔軟な感性と知性を自らが育みつつ、技術の開発・利用にともなう社会的倫理的責任の重さを自覚して行動することである。これは、情報社会を生きるための基本的素養にほかならない。安全で信頼のできる情報社会に貢献する人材を育成していくという本研究科の基本理念もまた、この要衝を見据えたものであるといえる。

 このような観点からみて、「情報倫理学」という学問領域をどのように構築するかという課題は、ひとつの試金石となる。「情報倫理学」は、情報技術、法制度、政治経済、社会規範などが交差する学際的性格をもち、くわえて、情報社会の加速度的な多様化と流動化にも的確に対応していかなければならないからである。本研究科では、情報教育関連のカリキュラムを刷新すべく、平成15年度に「情報倫理学」「情報法律制度論」等を「共通基盤科目」として新規に開講して、現在に至っている。平成18年度の「情報倫理学」のテーマを参考までに挙げてみれば ―― 「情報と倫理」「人と情報化社会」「ネチケット」「メディアテクストのディスクール的実践と編制」「キャラクター」「情報と法律」「暗号」「不正アクセス」「情報セキュリティ」「生命倫理」「遺伝情報」「情報化社会の技術と倫理」などである(各テーマの概要は、本研究科HPの「シラバス」をご参照願いたい)。

 むろん、このようなテーマ群の例示のみをもって、「情報倫理学」の学際性・文理統合性が判断されるわけではない。学際性を標榜することは容易だが、その実質的実現は難しい。また、教育方法の面では、ISTU(Internet School of Tohoku University)の活用や教材作成など、今後に残された課題もある。しかし、専攻間・分野間の壁を越えた教員スタッフの協力によって、一定水準の俯瞰性と緊密性をもった特色ある情報倫理教育のモデルを具体的に実施できたことは、本研究科の理念に向けた里程標として評価できる。

 既存の枠組みでは対処しにくい課題をわれわれに突きつけるのが、情報社会である。情報社会の諸問題に果敢かつ周到に挑戦していくためには、これからも新たな協力体制が必要となる。そのための教育研究環境を構築かつ整備しつつ、本研究科の理念を培っていくことができれば、情報社会の成熟に着実に寄与する道も切り拓かれるのである。

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