東北大学大学院情報科学研究科 シンポジウム「情報科学」から「交通ネットワーク」を考える

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レポートREPORT

講演1道路交通のウラ側手のひらから交通へ

桑原 雅夫 教授人間社会情報科学専攻空間計画科学

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手のひら発データの融合活用へ

渋滞や事故などの交通情報を使ったナビゲーションができるのは、車両感知器や、車両ナンバー読み取り装置、ビーコン(電波や赤外線を使った双方向通信)といったさまざまなセンサーが取り付けられているからです。

さらに最近では、スマートフォンに登載されたGPSやBluetoothなどを活用した、手のひら発の移動体からのデータが増えてきました。また、自動運転が注目されていますが、これが普及していくと車と車の間、車とインフラの間の情報のやりとりがもっと増えていく。

これからは、多様なデータの融合活用が一層重要になることでしょう。私はいま、事故や渋滞の発生、災害が起きた時の交通モニタリングや通行障害の検出といった研究に取り組んでいます。

そもそも渋滞はなぜ起きるのか?

渋滞が起きる理由は簡単です。それは、需要が交通容量を上回るから。5kmや10kmの渋滞というと、道路の能力の倍くらいの需要が押し寄せていると考えてしまうかもしれませんが、私たちの実際の調査では、需要が10%程度超過するだけで渋滞が発生することが分かっています。

つまり、ほんの少しの需要超過で、数kmという渋滞が簡単に起きてしまう。これは裏を返すと、ほんの少し需要を減らすだけで渋滞を大きく緩和できる可能性があるということでもあります。

未来のナビは時刻選択が可能?

渋滞を減らすには、①道路の容量を増やす、②需要を調整する(時間的な調整/空間的な調整)、の2つの方法があります。

ここでは、②の時間的な調整について考えてみましょう。関越道で行った調査では、昼頃から渋滞が始まり、夕方には渋滞が23kmになり、夜9時頃まで渋滞が続きました。こうした大きな渋滞も、実はちょっとだけ時間調整するときれいになくなってしまいます。

コンピュータ上の試算では、平均20分程度出発時刻を調整すれば、渋滞はきれいになくなるのです。

現在のナビは空間的な選択ができますが、未来のナビでは、いま出発した方がいいのか、30分待ってからの方がいいのかというように、時刻の選択が可能になるかもしれません。

講演2次世代自動車のウラ側地方創生のために
次世代モビリティがすべきこと

鈴木 高宏 教授未来科学技術共同研究センター(NICHe)

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次世代自動車とは何だろう?

HV(ハイブリッド車)、PHV(PHEV/プラグイン・ハイブリッド車)、EV(BEV/電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)、CDV(クリーンディーゼル車)などの次世代自動車は、基本的には電気で動きます。

さらに広い意味での次世代自動車として、次世代モビリティ、東北大学では次世代移動体システムと呼んでいますが、ハードウェアとしての車だけでなく、それを動かす交通システム、社会システムを含めた意味合いでの融合的な研究を進めているところです。

それは「電気自動車 +〇〇」というように、何らかの新しい価値を加え、そこに新しい技術が加わっていくということ。そうした中で最近話題になっているのが「自動運転」です。

自動運転をめぐる大きな誤解

自動運転に向けた国のプロジェクトは、主に高速道路での自動走行です。一方、社会的な部分では、いわゆる過疎地、人口減少が進む地域の中で地域交通の衰退という問題に対し自動運転で解決を図っていこうという流れがあります。

無人で走行する自動運転には、人件費がゼロだから安くなるという大きな誤解があります。大きなバスを走らせても1人乗るか乗らないかという状況では、無人にしたから安くなるというのは短絡的過ぎる。

とはいえ、新しいものを入れることで地域としてのやる気を出していく面もありますが、コスト削減を図る一方、自動運転に新たな価値を見出していくか、東北次世代移動体システム技術実証コンソーシアムという組織を地域主体でつくり、さまざまな実験を進めています。

その一つの可能性として、「コネクテッド」、クルマを介して外界や人の情報を利活用した新たなサービスが考えられます。

“ラストワンマイル”への挑戦

泉パークタウンで実施している実験では、自動運転で地域内を回る循環バスとオンデマンドで小さなEVが地域内の“ラストワンマイル”を担うという提案を行っています。

高齢化が進む地域に自動運転を含めた次世代交通のモデルをつくるのが目標です。“ラストワンマイル”について、例えば自動運転の機能をもった1人ずつの車両がだんだんつながり、隊列になって走っていくという案を描いています。

先頭の車のドライバーが責任ドライバーでハンドルキーパーになる、後ろの人たちはただ付いていくだけですから、ゆっくり何か他のことをしながら移動できる。こうすると大きなバスを持つ必要はなく、一人ひとりに必要な最小限のサイズの車をそれぞれが持つという形態も考えられます。

こうした新しいアイデアを試していくことが、これからは必要になるのではないでしょうか。

講演3経路探索のウラ側全経路探索列挙索引科技術

吉仲 亮 准教授システム情報科学専攻知能システム科学

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「最短」は簡単。では「最長」は?

昭和の時代、鉄道の旅ならば時刻表を持ち、時間を調べていました。車ならば道路マップを持参し、どの道を行くか決めていました。今では、手元のスマホやカーナビでどう行けばいいかすぐに教えてくれます。

このナビゲーションを支えているのが最短経路探索技術です。その大元の技術は、50年以上前から使われている最も基本的なアルゴリズムの一つ「ダイクストラ法」。コンピュータにとって「最短」を求めるのは実は簡単なことなのです。

最短路を素早く求めるアルゴリズムがあるのに対し、最長路を効率よく求めるアルゴリズムは存在しません。存在しないというのは、原理的にとても難しいと専門家の間で信じられているという意味。全経路を求め尽くすのと同じ程度の労力を払わないと、これは求められないと考えられている問題でもあるのです。

全部保存し多様な欲求に応える

鉄道マニアの間では「JR最長片道切符問題」というのがあります。それは、JRの片道切符1枚でたどれる最長路を求めたいという問題です。経路を指定できるけれども同じ駅を2度通れないというのが条件。簡単に言えば、一筆書きでできるだけ長い旅をする、回り道をするということです。

この問題は新しい問題ではなく、解いた人もいます。しかし、マニアという人々はもっといろいろな欲求を持ちます。「2番目に長い経路は?」「特定の路線を使いたい」「自分の家から出発したい」等々…。そうすると、片道切符で可能な経路をすべてあらかじめ求めておき、整理し保存しておこうという斬新なアイデアが出てきます。そうすれば、いろんな欲求にも応えられるようになる。

さて、全部保存しておくことはできるのか。実はJRの片道切符の可能な経路は、乗換駅や終点などの主要駅に限定しても、全部で2×1035通り以上あるのです。

探索・列挙・圧縮・索引化技術を駆使して

今回の全経路探索列挙索引には、二分決定図というものを使います。二分決定図とは、ものの組み合わせの集合を表現するために提案されたもので、良い組み合わせ、悪い組み合わせを区別するための方法です。

この方法を使うと、何百倍何万倍何億倍という指数的な圧縮が可能になり、あらかじめ全部列挙しておいた組み合わせ集合の中から欲しいものだけを持ってくるということが可能になります。

二分決定図でどんどん枝分かれしていくと、二分決定図が大きくなり過ぎるといった問題が出てきます。そこで使っているのが、同じものをまとめ、枝分かれして大きくなるのを防ぐという技術です。

その結果、最長経路だけではなく、片道切符として発券可能なすべての経路を保存、さらに、特定の駅を必ず通る経路の中での最長経路、できるだけたくさんの乗り換えをする経路、特定駅間の最長経路の検索も可能となります。

ちなみに、今回の計算では、稚内から肥前山口までがJR最長片道切符となりました。

講演4ネットワークのウラ側 グラフ理論の深みを覗く

尾畑 伸明 教授システム情報科学専攻システム情報数理学

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グラフ理論の始まりは?

点と線からできた図形をグラフといいます。どの頂点とどの頂点が線でつながっているかを隣接関係といいます。グラフでは、隣接関係だけに注目しますので、点や線の描き方は自由です。逆に、隣接関係があるところには必ずグラフがあるのです。

グラフ理論の始まりは18世紀に遡ります。プロイセンにケーニヒスベルクという街がありました。街の中には川が流れていて7つの橋がかかっているのですが、「7つの橋をすべて渡り元の場所へ戻ってください。

ただし、同じ橋を2度渡ってはいけません」という問題が話題になりました。この問題に答えを出したのが18世紀を代表する大数学者オイラーです。オイラーは問題を抽象化し、概念を導入し、普遍的な成果を与えました。今日私たちはそういうことをもってグラフ理論の始まりはオイラーだと把握しています。

グラフは、2つの頂点が線でつながっているかどうかという究極のローカルデータで定まっているのですが、この究極のローカルデータをもとにして、全体がどうなっているかということを研究するという点がグラフ理論の面白いところでもあります。

数学の世界で構造や秩序を考える

ラムゼー理論という数学の分野があります。大雑把には、ある特定の構造や秩序がどういう条件のもとに現れてくるのかを研究するものです。

グラフ理論に関連して少し触れてみたいと思います。すべての頂点が互いに辺で結ばれたグラフのことを完全グラフといいます。

今、4頂点から完全グラフを考えて、辺を青と赤の2色で塗り分けてみましょう。このとき、赤色だけまたは青色だけで塗り分けされた三角形ができないように上手に塗り分けることができます。

では、5頂点ではどうでしょう。この場合も赤色だけまたは青色だけの三角形ができないように塗り分けることができます。次に6頂点。この場合は、どんな塗分けをしても青色または赤色の三角形ができてしまいます。

同じ色の三角形ができるということを秩序と考えると、頂点数が6以上になると秩序が生まれるということです。これが最も簡単なラムゼーの定理です。

数学は想像と創造である

立方体において、頂点と辺だけを取り出すとグラフになります。これが3次元立方体のグラフです。

正方形から立方体を作る規則を援用して、4次元、5次元、6次元の高次元立方体、超立方体というものが考えられます。超立方体の頂点をすべて線分で結び、すべての線分を2色で塗り分けます。このとき、次元nが十分大きければ、どんな塗り方をしても、同色の平面四角形を避けるような塗り分けはできないというのが「グラハム-ロトシルトの定理」です。

では次元nはどのくらい大きければよいのか? グラハム出した結論は、「グラハム数以上のnについて成り立つ」というもの。グラハム数は数学の証明で使われた最大の数としてギネスにも認定されている巨大数です。グラハム数を表示するためには、私たちが日常で使っている10進表記では全く不可能で、タワーという新しいアイデアが生まれてきたのです。

数学は想像と創造である。私が今日話したかったのは、創造力は際限なく広がっていくということです。10100を表すグーゴル(googol)という単位はたった9歳の子供の創案だそうです。全宇宙の素粒子の数は最近の宇宙論では1080と言われていますが、その数を超える数をその子供は頭の中で想像したのです。

そして、グラハム数のようなとんでもない巨大数でさえとらえてしまう、人の想像力の素晴らしさを大事にしたいと思います。

グラハム数

講演5自動運転のウラ側 渋滞のない道路交通システムをデザインする

赤松 隆 教授人間社会情報科学専攻交通制御学

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近年発展が著しい自動運転技術は、現在の道路交通システムが抱えるさまざまな問題を解消すると期待されています。しかし、この技術単独の発展のみでは、世界中の都市で未解決の「渋滞問題」の根本的解決にはつながりません。今回は、自動運転車が普及した将来、道路渋滞を解消するには、どのような仕組みが必要かを考察します。

Smart City, Smart Traffic, and Shared Autonomous Vehicles (SAVs)

今日は、プログラム記載の題目(「渋滞のない道路交通システムのデザイン」)に、このような副題(「Smart City・自動運転車は渋滞を解消できるか?」)を追加してお話をしたいと思います。

その導入として、まず、“Sidewalk Labs” という企業の web page をご覧いただきたいと思います。何の会社でしょう? Mobility、Housing & Real Estate、 Sustainability、Public Realm。なんだか、建築設計事務所か土木計画系コンサルティング会社かな?と思うようなページです。最後に、Open Digital Infrastructure. ご存知の方もおられるかと思いますが、この会社は、Google の兄弟にあたる IT企業で、カナダのトロントで野心的な Smart Cityプロジェクトを実行しています。これもIT企業 IBM のSmart Cityに関する web page です。どうして、都市に関するプロジェクトをIT企業が? と言う方もおられるかもしれませんが、Smart City とは、情報通信技術 (ICT) の活用によって都市を賢く運営・管理してゆこう、つまり、ICT の活用対象を 「仮想世界」から都市という「現実世界」へ拡大してゆこうというものです。従って、先端的なIT企業がどんどん参入してきているわけです。

この「現実世界」と「仮想世界」を、念のため、都市交通を例として言えば、現実世界は道路網の交通流、仮想世界は Cloud Computer System です。通信ネットワークが貧弱だった時代にはこの両者は互いに独立だったわけですが、それを繋ぐことができるようになってきました。また、交通流の状態もモバイル端末のような各種センサーが普及したことによって、どんどん観測できるようになってきました。じゃあ、その情報を Cloud Computer上で整理・分析し、さらに、実世界の制御へとフィードバックしてゆこう! というわけです。要するに、Smart Cityというのは、IoTの概念を都市に適用しようというものですので、都市に関わる様々なサブシステムが考えられていますが、今日の私の話は、交通を対象とした “Smart Traffic” に限定します。

ちなみに、交通の分野では、これと似たような概念として、ITS が20-30年ほど前から進められてきています。これも基本的には、ICT の活用によって交通の様々な問題を解決してゆこうというもので、皆様よくご存じの ETC システムやカーナビの道路混雑情報システム (VICS) は、このITS の実現例です。ただし、これらのITS は、この10年ほどの間に誕生・普及したスマホ以前の ICT を前提としたやや旧式のシステムです。

それに対して、スマホと Cloud Computing を活用した新たな Smart Traffic の一つが、Uber に代表される Ride Sharing service です。タクシー業界と所轄官庁の規制のために日本は全く蚊帳の外ですが、世界的には、この10年ほどの間に急速に普及し、消費者の交通行動を、個人所有のクルマによる移動から事業者によって提供されるサービスの購入にシフトさせつつあります。そして、2010年に Google が公道で走行実験を始めて以来、研究・技術開発が急速に進みつつある自動運転車も、今後の Sart Taffic のカギを握る技術です。この写真は、Uber の自動運転実験車ですが、自動運転車の普及は、Uber のような Mobility Sharing Service から始まるだろうと言われています。そして Mobility Sharing Serviceが自動運転化されたShared Autonomous Vehicles (SAV) が当たり前になり、より便利で安価になったサービスの利用に消費者はますますシフトしてゆくであろうと言われています。ちなみに、日本の自動車会社のトヨタは、この様な世界的な潮流に後れを取っているのではないか? と言われていましたが、つい先月、SAV に加え、物流/宅配トラック・公共交通・移動店舗等の自動運転をも包括的に扱うプラットフォームe-Palette構想を発表し、話題となっています。

Smart Traffic/ITS, SAVsは、本当に渋滞を解消できるのか??

さて、自動運転関連の多くの本では、自動運転車の普及によって、交通事故の激減に加え、なぜか渋滞もなくなるという未来が書かれています。しかし、こういう新しい技術によって、本当に渋滞は解消するのでしょうか? というのが、私の今日の話の本題です。

この問題を考える材料として、まず、以前から試されてきた多くの混雑解決策に関するある簡単なパラドクスをご紹介します。この図の様に、一つの起終点を2本の経路が結んでいる道路ネットワークを考えます。利用者は、起点から終点に行くのに、経路1か2のどちらかを選択できます。経路1は、遠回りですが、車線数の多い道路なので、所要時間は交通量によらず15分です。一方、経路2は、近道ですが、この橋で混雑が起こるため、その所要時間は、このような交通量の増加関数です。ここで、利用者の選択行動原則として、所要時間が小さい経路を選択すると仮定します。経路2の交通量がゼロの状態から考えると、経路2の所要時間が最小なので、利用者全員1000台が経路2を選択することになります。ところが、そうすると、経路2の所要時間が混雑によって 30となるので、より所要時間の小さい経路1を選択する利用者が現れるはずです。こういったことを日々繰り返すと、利用者均衡と呼ばれる状態、すなわち、「どの利用者も自分だけ経路を変更しても、自分の所要時間を改善できない状態」となれば、交通量パターンが安定すると考えられます。例えば、この所要時間関数のパラメータγが500 の場合、経路2に250台、経路1に750台という交通量パターンなら、どちらの経路でも所要時間が等しくなるので、均衡状態です。

ここで、「せっかくの近道である経路2の交通量が小さいのはもったいない。より多くの人が利用できるようにしよう!」ということで、経路2の容量を改善し、パラメータγが1000になったとします。すると、均衡状態での経路2の交通量は500台となります。これは、一見すると、意図通りに経路2の利用者が増え、めでたしめでたしなのですが、よく見ると、本来改善すべき所要時間については何も改善されていません。つまり、この容量改善のための投資は、お金をどぶに捨てるようなもので、全く意味がないということが判ります。

このような「良かれと思って実施した政策が、かえって状態を悪くする」 という例は、道路交通システムでは、特殊なものではありません。これと同様のパラドクスは、例えば、道路建設、信号制御、さらには、情報提供による経路誘導、等によっても、起こりうるということが、これまでの多くの研究で示されています。

このようなパラドクスが生じる理由を理解するには、道路交通におけるシステム最適 (SO) 状態と利用者均衡 (UE) 状態の違いを認識する必要があります。前者は、かりに道路管理者が全車両の経路を制御できると想定したときに、道路網全体での交通費用の総和をもはや改善できない状態、つまり、中央集権的に道路網を最も効率的に利用した状態です。後者は、既にみたように、個々の利用者が自律分散的に行動した結果、自分の交通費用を改善できなくなった均衡状態です。混雑のある道路網では、一般的に、この二つの状態は一致しません。二つの状態を、さきほどの例題ネットワークで具体的にみると。。。まず、UE状態では、経路2の交通量は250で総所要時間は15000です。一方、SO状態では、総所要時間を最小化するため、経路1と2の所要時間は均等化せず、混雑する経路2の交通量と所要時間がUE状態より小さな値となります。

ちなみに、Uber が自動運転化された SAV が普及すれば、SO状態となるような経路制御が実現でき、混雑問題を緩和できそうにも思えます。しかし、そのような考えは、おそらく実現困難です。まず、SO状態では、各経路の所要時間は不均等ですので、利用者間の不公平感が大きく、利用者に受容されない可能性が高い。また、複数のMobility Service (MS) 供給者が存在する場合、各供給者の最適行動の結果生じる均衡状態とネットワーク全体でのSO配分状態は一致しません。さらに、“中央集権的” 制御 では、計算負荷が膨大で Scalabilityがないため、大都市を対象とする場合には、実現困難でしょう。

さて、さきのパラドクスはUEとSOの乖離から発生しているわけですが、これを経済学の言葉で言えば、混雑による外部不経済が引き起こす現象と言えます。つまり、混雑した道路では、1台の車が加わると、他の車にも所要時間の増加を強制します。しかし、各利用者は、その他人への迷惑効果、つまり社会的限界費用を考慮することなく、自分の交通費用のみの最小化行動をとるため、道路全体の利用効率が落ちるわけです。そこで、利用者が各自の迷惑効果を認識して行動するよう、料金を賦課すれば、道路全体の利用効率を最適化できるというのが、混雑料金の理論です。先ほどの例題で具体的に示すと、経路2の社会的限界費用は2.5分と計算できますので、その2.5分に相当する混雑料金を賦課したとします。すると、利用者は、その料金込みで自由に経路を選択します。その結果生じる均衡状態をみると、このように経路2の交通量が抑制され、まさにSO状態に一致することが確認できます。さらに、この混雑料金によって、容量増強パラドクスも回避できることがわかります。まず、初期容量状態で、混雑料金を賦課すると、SO状態となり、総交通費用TCが減らせることは先ほど見たとおりです。さらに、混雑料金を賦課する条件で容量を増強すれば、このように、TCをさらに減少させることができます。つまり、交通量パターンを混雑料金によってSO状態に誘導しておけば、容量増強投資の効果が発揮できるわけです。

この様に、混雑料金は、混雑外部性を解消し、道路網を効率的に利用できる優れた制度です。ただし、この制度にも致命的な泣き所があります。それは、最適な料金レベルを決定するためには、道路管理者が利用者の需要関数情報を正確に把握しておく必要があるという問題です。これは、現実の道路管理者には、ほぼ不可能な高いハードルです。実際、誤った情報に基づいて高すぎる料金を付加すると、交通需要を抑制しすぎて経済的損失を生んでしまいますし、一方、安すぎると、混雑を解消できません。

これと類似した問題は、MSサービスの料金でも生じます。Uber では、乗車希望者の多い区域・時間帯での料金を高くする “Surge Pricing” system を導入しています。これは、動的な混雑料金制の一種と考えると、混雑解消効果が期待できそうに思えます。しかし、実際には、高料金の区域・時間帯に Uber 運転手が過剰に集まり、道路の混雑状況を悪化させているとの報告がなされています。つまり、MSの需給を一致させ、かつ、道路混雑をも解消するような料金の設定は、かなり難しいということです。

ここまででお話しした混雑解消策を歴史的な登場順におさらいすると、まず、(1) 道路建設や容量増強は、パラドクスの例でみたように、だめ。(2) 情報提供も、やはり同様で、渋滞解消の切り札とはなりえない。(3) 混雑料金制度は、理論的には混雑解消を期待でき、ITS 技術上も実施可能ですが、最適な料金レベルの設定が難しいという大きな問題がある。そして、(4) Mobility Sharing Service の dynamic pricingも、利潤最大化行動に基づく民間企業では、混雑を解消する適正レベルの料金設定は実現できないでしょう。最後に、(5) 自動運転による経路制御も、先に説明したように、実現困難です。というわけで、方策がなくなってしまいました…

交通渋滞解消のための近未来型の仕組み “TNP system”

新たな良い渋滞解消方策を考えるのは、若い皆さんの課題です。老兵は消え去るのみ、若い皆さん頑張ってください! と言って無責任に今日の話を終えたいところですが。。。。。まだ時間があるようですので、最後に、私の研究室で提案している方法を簡単にご紹介いたします。それは、Tradeable Network Permits system(ネットワーク通行権取引制度)です。

このTNPの説明にはいる前に、道路交通に関する最低限の予備知識として、「渋滞」と「交通容量」の概念を見ておきます。まず、道路には、単位時間内に通過できる車両台数の上限値、すなわち、「交通容量」があります。そして、ある道路地点の「渋滞」とは、その地点を通過したい車両台数(交通需要)が、交通容量を超過し、上流に溜まってゆく現象です。従って、交通需要が容量以下なら、渋滞は発生しません。

飛行機や新幹線では、通常、乗客の渋滞現象は見られません。それは、交通需要が交通容量を超えないように、各便・各座席ごとに、「指定席予約」があるからです。「それなら、道路も同じようにすればいいじゃないか!」という一見非常識なアイディアが、「ボトルネック通行権」です。すなわち、渋滞の頻発しているボトルネックを対象として、そこを特定の時間帯に通行できる権利がボトルネック通行権です。そして、道路管理者が設定した通行権を所有しているクルマのみが、そのボトルネックを通行できることとします。そうすると、そのボトルネックの交通需要は、必ず通行権の発行枚数以下ですから、発行枚数を交通容量以下にしておくだけで、渋滞の発生を防ぐことができます。

この通行権を、早い者勝ちの予約制によって配布したとすると、そのボトルネック通行に非常に高い価値を見出しているにも関わらず通行権を手に入れられない利用者が発生します。そのような、経済的損失の発生を避けるために、我々の提案するTNPでは、より効率的な通行権の配分法として市場取引を採用します。すなわち、通行権を売買取引できる 「通行権取引市場」 を創設し、道路管理者は、この市場で通行権を発行し、利用者は、この市場で通行権を購入します。この市場が競争的で、取引ルールが適切に設計されていれば、混雑料金制の 「最適料金」 に対応する 「適正価格」 が市場取引過程で自律分散的に決まり、混雑料金制のような需要情報問題も解消することが期待できます。実際、これまでの我々の研究の結果、ボトルネック通行権取引をより一般化し一般ネットワーク(時刻と経路を選択) を対象としたTNPシステムは、道路管理者が詳細な利用者情報を知ることなしに、社会的交通費用最小化状態を達成可能であることが理論的に示されています。

このように、TNP は理論的に優れた特性を持っていることが判りましたが、実装までにはまだ幾つかの課題が残されています。その第一の課題は、利用者に面倒な市場取引を要請する点です。この点については、SAV普及を前提とすれば、MS事業者が道路管理者からTNPを購入するというスキームを考えることで、解決できそうです。第二の課題は、基本理論では市場均衡状態を集計的な需給均衡条件によってブラック・ボックス的に扱っており、その均衡状態への到達過程まではモデル化・保証されていないことです。この点については、利用者・ 事業者 の取引行動を代行する Agent Software の自律的な選択行動やミクロな市場取引メカニズムを適切に組合わせたシステムを設計する必要があります。

課題1に対応するために我々が提案するメカニズムでは、TNP市場とMS市場という二つの市場を創設します。前者は道路管理者 と MS/SAV事業者が TNP を売買する “卸売” 市場、後者は事業者と消費者がMSを売買する “小売” 市場です。つまり、道路容量の配分を担うTNP市場に加え、MS容量の配分すなわち、SAV配車サービスと利用者を適切な価格でマッチングするためのMS市場を考えます。Uber のサービスも MS市場の一種ですが、そのプラットフォームは、単一企業が独占的支配力を持つ閉じた市場です。それに対して、我々の研究では、オープンな競争市場を想定しています。このように機能・参加者の異なる二つの市場を組み合わせることよって、消費者の観点からも利便性が高く、かつ、道路混雑を解消する仕組みができると期待できます。

課題2への対応は、利用者・ 事業者の取引行動を自動的に代行する Agent Software 行動ルールの設計問題となります。この Agent Software の行動ルールが満たすべき要件としては、このような項目(個々のエージェント・ソフトウエアの行動の自律性、エージェント行動ルールの簡潔性、エージェント群行動ダイナミクスの安定性、ネットワーク総交通費用の最小化)が挙げられますが、Agent Software群行動ダイナミクスの安定性や社会的最適状態への収束保証については、進化ゲーム理論の枠組みとTNP の枠組みがもつ基本特性を組み合わせることで、理論的に解析できます。また、市場のミクロな取引ルールについては、詳細は省略しますが、ゲーム理論と計算機科学の融合分野であるメカニズム・デザイン理論を基に解析・設計できます。

以上、最後は駆け足でお話をしましたが、自動運転という個別技術だけではなく、新技術を前提とした新しいアイディアとここにあげた分野(「交通工学・交通計画」、「都市・交通経済学」、「ゲーム理論/メカニズム・デザイン理論」、「計算機科学/システム数理工学」)にまたがる基礎理論に基づく研究を進めれば、将来的には混雑のない道路交通システムを実現できそうです。意欲のある若い方は、ぜひ東北大・情報科学研究科に来て、このような研究にチャレンジしてみてください。

 

講演6リニア新幹線のウラ側 地下を中空移動する半宇宙人の夢

森 一郎 教授人間社会情報科学専攻人間情報哲学

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哲学研究者がなぜ「リニア新幹線」か?

哲学は、そもそも技術とは何か、そもそも物作りとは何か、と考えます。作るとは使える物を作ることであり、作ることと使うことはワンセットです。作られた物が使われ続けることが、作ること自体の意味には属しています。1964年に開業した東海道新幹線は、その後半世紀以上も使われ続け、傑出した「昭和の作品」となりました。

一方、2014年に着工されたリニア中央新幹線はどうでしょうか。品川―名古屋間の開通予定が2027年。いったん工事を休止して続行資金を準備してから工事を再開し、名古屋から大阪までをさらに掘り続け、2045年に完成――これが当初の計画でした。

ところが着工後に、完成が2037年に前倒しとなりました。一企業の事業計画に口は挟めないからとろくに議論のないまま認可された巨大建設事業が、3兆円もの公的資金を注入して当初の計画を大幅に変更するということが、あっていいものでしょうか。ゼネコンの工事入札不正疑惑以外にも、リニア新幹線のウラ側には、多くの問題が潜んでいるのです。

リニアに潜む多くの問題

まず、環境への負荷という問題があります。日本列島の地下深く縦断して巨大なトンネルを掘り続けるということ自体、自然破壊以外の何物でもありません。トンネルを掘ることで出る膨大な土をどこに持っていくのかも、まだきちんと決まっていません。

電磁波が人体に与える影響も環境問題の一つです。次に重要なのが電力問題です。リニア新幹線を動かすには、従来の新幹線の何倍もの電気が必要です。もともと浜岡原発と柏崎原発で発電される電気を使う計画でしたが、3・11以後いずれも運転停止中です。巨大な電力を今後どうやって供給するのか(原発再稼働や新設の口実にはなりますね)。そしてもう一つ重要なのが採算の問題、つまり乗客がどれだけ見込めるかです。人口の減少が予想される日本にあって、交通需要が高まっていくことはまずないでしょう。なのに、新しい新幹線を作って採算がとれるのか。こられはJR東海という一企業の問題ではありません。日本の将来にかかわる公的問題です。

テクノロジーについて公的に議論しよう

宇宙へ飛び出していきたいという夢を、根源的に人間は抱えています。飛行機のように、それで可能になったテクノロジーもあります。電磁気で浮力を発生させ、それを利用して地下トンネル内を超高速で中空移動するリニア新幹線にも、私はその宇宙願望の片鱗を見てしまいます。

フランスの超音速旅客機コンコルド、日本の原子力船むつや高速増殖炉もんじゅなどを、私は「廃テク」と呼んでいます。ドイツは2008年にリニアから完全撤退しました。リニア鉄道もすでに「廃テク」なのではないでしょうか。

哲学者のハンナ・アーレントはこう言っています。「いったん踏み入れた道はどんな道でも最後の最後までたどる、という鉄則が、科学の本質にはひそんでいる」と(『活動的生』序論、森一郎訳、みすず書房)。暴走し始めたテクノロジーにブレーキをかけるのは、市民の議論以外にありません。

市民が自分たちの問題として関心を持ち、考え、議論をして進路を決めていく。これをやらずに放置して、半宇宙人のおもちゃを作り続けていると、日本の将来が塞がれてしまう。私はそう危惧しています。

パネルディスカッション どうなる?未来の交通ネットワーク

モデレータ井上 亮 准教授人間社会情報科学専攻空間計画科学

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井上

パネルディスカッションの進行を務めます井上と申します。今日ご講演いただきました6人の先生方にパネリストを務めていただき、パネルディスカッションを開催したいと思います。

テーマは「どうなる未来の交通ネットワーク」ということで、考えたいと思います。近年、情報科学の成果であるさまざまな理論や技術が交通分野にも応用され、未来の交通の姿をこれまでのものから大きく変えつつあります。

この先情報科学はどのように交通を変えていくのか、その展望についてパネリストの皆様に議論をしていただければと考えています。 パネリストの先生方にお話を伺う前に、来場者の皆様がどのような感想をお持ちなのか、討論の際に伺っておりますので、そちらをまとめた結果をご紹介します。

取り上げられた話題あるいは今日のご質問と絡めて先生方にお話ししていただければと思います。
キーワードを私なりに整理しますと渋滞問題であるとか、シェアリングエコノミー、全自動運転、その他社会的課題との関連などが多く挙げられておりました。

渋滞ですと予測が可能なのか、あるいはより高度な経路探索はなにか、あるいは渋滞を制御することは可能か、というようなお話がありました。シェアリングエコノミーに関しては、カーシェアなどが実際に普及し始めていて、人々の生活をどのように変えるのか、あるいは赤松先生のお話にもありましたが、サービスとして交通を提供するというのは進んでいくのかとか。

自動運転に関しては産官学の連携がどうなっているのか、日本が先頭に立ってリードするようなところにいるのかなど。社会的課題の関連では、鈴木先生の話と関連しますが、地方の交通が生活産業を支えるカギになるか、あるいは高齢化時代の交通のあるべき姿とはどのようなものか、というような関心がありました。

またこれらが融合したものとしてエネルギー消費の問題、複数の交通網の連携、あるいは自動運転と関わる社会的課題、人と機械の役割分担、新技術をどのように社会的に受容していくか、あるいは赤松先生の話の中で紹介されていましたがネットワーク全体の制御につながるのは自律分散的な制御なのか中央集権的な制御なのかということも事前のアンケートでいただいています。

これまではインフラでカバーしていた部分が多いですが、それがサービスというもので語られる未来の交通ネットワークの姿とは、ということをテーマにこれからお話しいただければと思います。

まずは桑原先生から渋滞関連の話題でお話しいただけますか。

桑原

非常に興味深い、かつ難しい質問をいただきまして、私は渋滞の研究をメインにやってきたものですから、渋滞というところについてお答えしたいと思います。

経路探査、渋滞予測制御というキーワードが書かれておりますが、渋滞を解消するのは先ほども言いましたように需要と供給のバランスの問題で、供給の方をあげる施策…例えば新しい道路を作るとか、規制をするとか、信号の制御を変えるとか、そういうことはこれまでも行われてきました。

しかし近年は、新しいインフラを作るというのは限定的にしか選択できない時代に入ってきたのだと思います。したがってこれからできることはやはり今あるインフラをいかに有効に使うかで、どちらかというと需要の調整の方に重きを置いていくのではないかと思っています。

その時にキーワードになるのは、人は移動する時にどういうルートを通るか、それからどういう交通機関を使うか、いつ移動するのか、短期的にはこうだと思います。中長期的に見るとどこに住むかなど起終点の選択もありますが、短期的に言えばルートと交通機関と時刻という選択をどのように選択するかということになると思います。

その中で今日私が焦点を当てたのが時刻なんですが、交通機関やルートの選択をサポートするような情報は今までもいろんな形で提供されてきました。

しかし時刻の選択に関する情報はあまり提供されてなかったので、今日は焦点を当てたわけです。時刻の選択に有用な情報を与えるためには、これから交通状況がどうなるのということを伝えてあげなくちゃいけません。

いま出た方がいいのか、30分待ってから出た方がいいのか、そういう情報を与えるためには、ここに書いてあるように、交通状況を予測できるのか、ということが必要になります。

100%予測するというのは、将来のことですから難しいです。ただ、これだけたくさんのデータが使えるようになってきたので、過去の交通状況の推移を学習する、それから交通流の理論を援用することで、近未来の交通状況の予測というのは、次第に可能になっていくと思っております。

井上

ありがとうございます。モードのお話に関しては鈴木先生も先ほどお話しされていましたが。

鈴木

そうですね。やはりそれぞれの手段に長所短所があるので、場所ごとの容量によるんですが、比較的多様な選択肢があった方が分散させやすいのではないかと僕も思っています。

もう一つ渋滞に関するところで思うのは、結局のところ移動のニーズというものがいかに集中しないようにするかで考えると、おおもとの部分をどうやって捉えるかが実は大事なのではないかと思っています。

井上

それでは今回上がっている他のテーマで、鈴木先生に社会的課題との関連で、高齢化時代の交通であるとか、地方では公共交通がほとんど成り立たなくなっているとか、特に最近はJR北海道の話題がありましたが、自動運転や新しい技術の供給がどのようにされているのか、地方部の交通を変える可能性はあるのか、それについてどのような挑戦をされているのか、それについてお話しいただけますか。

鈴木

交通とか移動で大事なのは、交通や移動は目的ではなくて手段、ツールでしかないと思うんですね。何のために移動するのか、何のためにモビリティを使うのかということを考えてみると、地方で言えば地域内の移動というところで、ビジネス的に何かを生むのかというと、自分たちの持っているリソースの経済の中で動くしかないので、どうやってもなかなかプラスを出すのは難しい話だと考えます。

その点で逆に地方には都市部にはないような宝や価値があるところを見つけて、それをどうやって外に向けてトレードしていくかというところで、お金を稼いでいく必要があると思います。

どうやって情報発信するかということと、発信した情報と移動をどうやって結びつけるか、物流や人の移動や観光などとの組み合わせがポイントになるのではないかと思っています。

井上

はい。何か関連する話題で先生方からお話はありますか。

桑原

自動運転は昨今すごく話題になっています。自動運転もいろいろなレベルがあって、例えば普通の自動車が街中をスイスイ自動で走っていて、運転者はほぼ手離しでも目的地に着くようなシステムも考えられていますが、このような自動運転は私個人的にはまだまだ先だと思います。

一方で中山間地域でお年寄りの足を確保するためにテクノロジー的にはゴルフカートみたいなものを導入して、ある決められたルートを走るという社会実験も行われておりますが、このようなシステムはすごくニーズがある上、実現性も高いと思います。

これからはお年寄りの足をどう確保するか、中心市街地の活性化をどうするか、観光地の交通をどうするかといったニーズのあるところにある実現性の高い自動運転を導入するということが必要だと思います。

自動運転といいますと、リニア中央新幹線は無人運転の予定だということを皆さんご存じですか? 私も調べて驚いたんですが、運転手がいないんですよね。中央制御で遠隔操作された超高速浮遊式超地下鉄に乗る乗客っていったいどういうことなのかなって思うんです。

まさにこれは中央集権型、中央コントロール型で発想されている。いろいろと議論はあるようで、それぞれのローカルなところでの分散型の、その中にも自動制御があるんでしょうが、とにかく私は無人運転のリニア新幹線にはあまり乗りたくないなと思っています。

井上

自律分散自動制御というような話が出ましたので、関連して交通ネットワーク全体の制御という話を赤松先生からいただければと。

赤松

中央集権的な制御を道路システムでやるというのはあまり筋が良くないと講演の際にも申し上げましたが、スケーラビリティがないわけですね。都市というのは世界中で発達していて、どんどん規模が大きくなるところが増えています。

それを中央集権的に制御するのは理論的に考えて無理があるし、いやですよね、そもそも。実際Uberが全部やる世界を考えたら、ディストピアなんですよ。Uberがすべての情報を握って、Uberの指示通り動くというのは。だからそうならないための仕組みを大学みたいに自由な世界の人が、好き勝手やって上手くいく方法はないかなと考えた方がいいと思いますね。

今インターネットもアメリカのビッグIT企業が全部を握っている。これはある種、中央集権的な方向に向かっているわけですし、そうではない方向の制御というものを大学の各研究者も考えなくちゃならないのだと思います。バイアスのかかった意見ですが。

鈴木

せっかくいい方向で話が来ているので。今赤松先生が言った自律分散というのはすごくキーワードになって、今日の話を通じて思ったのが、国家的な行政組織がとってきた交通ネットワークが、民間に移ってくるというシフトで理解されていると思うのですが、昨今騒ぎになったビットコインというところも本来は国家が管理する通貨だったところを、もうちょっとネットワークということで外そうというところで、単に頭がすげ変わっただけみたいになってしまっているのが残念なところで。

そうではなくて今日の話に一貫して通じているのは、ローカル分散型のネットワークの中で考えていくと、実は答えが出てくるのではないかと。

数学のお話を聞いていて思ったのは、コンピュータネットワークでも今まではセントラルプロセッシング型というか、むしろ並列計算型のところでスパコンがどんどん進んでいって。

特にグラハム数のときの先生のお話のところで言うと、分散型でありつつそれが階層型になっているような処理形を実現できると、スケールアップというかいまのところの容量制御が完全に突破されて、新しいものができていくんじゃないかと。それを現実の世界に持ってくるにはどうしたらいいんだろうというのが、個人的に今日浮かんだ疑問です。

尾畑

今日お話ししたグラハム数のような想像を絶する大きな数でさえ、新しい表現方法を編み出して研究対象にしてしまうところが数学の強みだと思います。鈴木先生がおっしゃったような階層性に類似点はありそうですが、すぐに結びつくかどうかは私にはすぐにはわかりません。

おそらくは、そういうことに刺激を受けながら、もっと若い多くの方々がいろいろと研究を進めていただければと期待することで、お茶を濁させていただきたいと思います。吉仲先生何かあります?

吉仲

グラハム数の表現が階層的になっているということと、自律分散型における中央集権型との関連性というのは、ちょっと私も飲み込めていなくて、すみません。

今日の私の話は非常に平板な話で、すべての頂点や辺を同じように扱うという話でしたが、もう少し応用の方でいくと、例えば重要なハブになるような部分に着目して、階層を作っていくという話もあります。そういうところでいろいろな階層型の話にもなるんですが、うまくつながらなくてすみません。

桑原

私も分散制御の方がこれからはいいなと思っている一方で、分散制御で本当に全体最適ができるのか、難しい場合もあると思います。今日の赤松先生のお話というのは、そこにプライシングや通行券を導入して、個々の人間は自分一人の最適化をしつつ、全体も最適化になるようなことができるという例を説明してくれました。

一方で道路交通の制御というと、信号制御が重要ですが、一交差点ごとに信号が独立に交通を制御して、エリア全体の最適制御を実現させるのはなかなか難しい問題です。

だから分散制御は上手くいく領域といかない領域があるのではないかと思います。ただ、これから自動運転、完全自動運転にはならないまでも、車と信号機というのはコミュニケーションできるようになると思いますが、そうなってくると、制御する側の信号と、受容側の車が相互にコミュニケーションすることによって、割合ローカルな信号と車とのやりとりで上手な制御が実現できる気もしています。

井上

残り時間が短くなってまいりましたので、質疑応答の時間とさせていただきたいと思います。会場の方でご質問のある方は挙手にてお知らせください。

(質問者1)

今日一日聞いていて、机上のお話か、ちょっと昔のお話か、どちらかだったような気がしていて、いま現実の問題に大学の皆さんはどう向き合っているのかなと。

先ほど若手の研究者にやってほしいという意見がありましたが、現実の問題としてどんどん複雑化して解かなきゃいけない問題が山積みになっている中で、ちょっとぼんやりしているなと感じたんですが、現実の問題にどう向き合っているんでしょうか?

鈴木

今の大学の学問体系というか組織のところから言うと、やっぱり単独の研究者が現実の問題に幅広く対応しなきゃいけないのはすごく難しい状況で、正直コストパフォーマンス的にも成立していないという風に思います。

私はそういう中で現実的にやらないと、という気持ちがすごく強いんですけど、正直全然ペイしてなくて、はっきり言うと、そのせいでここ数年論文が全然書けていないんです。学術業績がないと大学の人間としては成立しないので。ただ、自分の専門をシステムインテグレードしようと思っているので、そういう広い意味での分野のインテグレーションをどうやって立てるかに関して、いろんな先生方であったり企業さんであったり、行政組織であったりとネットワーキングすることによって、現実問題になってくると考えています。

今日のお話の中で、単体でできる容量が限られているところを、どうやってネットワーク化してそれぞれの部分の可能性を広げていくかという話が、個人的には気付きを得た部分だと思っています。

大学だけで企業に対して現実問題に答えられるかということは正直NOであって、大学と企業と行政、一般の人たちが有機的に連携してやることをどう社会的に評価していくのかという仕組みができてこないと、お答えにはならないんじゃないかと思います。

桑原

まったく現実の問題をやっていないわけじゃありません。今日はたまたまそういう機会がなかったのでそういう話をできませんでしたが、災害時の問題とかいろいろと取り組んでおります。

ただ私は、大学の研究が本当に社会展開を行う必要があるのかどうか、やや疑問に思います。大学の研究室はただ研究するだけじゃなくて、その成果を社会に展開して社会の中に浸透させなければならない、ということは最近よく耳にしますが、やはり産官学それぞれの役割があって、大学というのはある意味、少し先を見越したような研究に重きを置くような傾向があっていいんじゃないかと感じています。

(質問者2)

私は渋滞のところにかなり興味があります。スマートフォン向けのナビゲーションサービスを展開する会社で働いているんですが、今日お話しの中でキーワードとして自律分散をしていくべきだというお話があって、非常に同意できました。

一方で自律分散に任せる際に現在さまざまなナビゲーションサービスがあります。スマートフォンで海外のグーグルですとかYahoo!カーナビやナビタイムなどさまざまなサービスがある中で、例えば「このカーナビサービスを使った人は時差通勤をした際にインセンティブを与えます」というような動きをした時に、特定のサービスを使っている人だけが動くと、結局その人たちはポイントをもらえたけれども、時差というのが実際に社会を動かすところまではいかない。

まさに赤松先生の話の中であった、一人二人が動いても全体は変わっていかないという問題があると思うんですが、全体の交通を最適化していく中で、自律分散を促しながらも、自由競争のサービスプロバイダにだけゆだねてしまうと、そこは足並みがそろわないと思います。自律分散を促しつつ、全体の最適をバランスよくとっていくにはどうすればいいのかということをお聞かせください。

赤松

自律分散型で実現する状態と、全体最適的な状態はなぜ一致しないかというと、混雑の外部性があるからです。

外部性への対処法は、金銭化してマーケットに任せるか、あるいは情報が正確に分かるのならプライシングをだれかがするか、です。それなしに情報提供だけで自律分散で勝手にやってねでは、いい状態は当然のことながらできないと私は思います。あとはマーケット以外に本当に外部性を消し去る方法があればいいですが、残念ながら私は今のところ思いつきません。

(質問者2)

私もマーケットにしてしまうというのはいいなと思っていて、ただ日本で実際それをやろうとするとどこがボトルネックになってしまうのかということが気になりました。例えばどこかの事業者が「ここの道路をプライシングする」と言ったらそれは当然怒られるわけで。

赤松

さきほど鈴木先生が、国家がやっていたものが民間に移っているとおっしゃっていましたが、国家は本来もっとニュートラルにマーケットの運営など、場を作ればいいわけですね。

マーケットの実際の運営は民間がやってもいいかもしれませんが、それを設立したり監視したりするのは国家の仕事にすればいいわけです。道路のプライシングも、道路管理者がやってくれればいいのですが、実際はなかなか難しいと思います。

しかし、民間にすべて任せても駄目だと思うので、プラットフォームになるマーケットは公共の立場で作って、その上で民間企業が運営するという上手い仕組みをつくっていければいいのではないかと。

(質問者2)

官民学の連携で進めていくといい意味合いになるかもということですね。ありがとうございます。

井上

ではこれでパネルディスカッションを終了したいと思います。ありがとうございました。

GSIS