東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University 東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University 東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University 東北大学 大学院情報科学研究科 Graduate School of Information Sciences, Tohoku University
 
 
 
 

研究者、駈ける #06

コンピュータサイエンスと物理学が出会う地平へ。 大関 真之 東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授

“知”の広がりと深まりがつくる世界と未来。

著作が人気だ。“世界一やさしい「量子力学」の講義”と帯紙に謳われた科学読み物には、数式や専門用語の一切がない。研究者や専門家のフィールドで躍動するテーマ――量子、宇宙、人工知能、機械学習――を大関真之准教授は手なずけ、難解なトゲを抜き、“文系”読者に届けてくれる。ネコ型ロボットが登場するアニメやSF小説がふんだんに引用されるとあれば、知的好奇心も眠ったままではいられない。

講演依頼は断らない。完全アウェー、畑違いの分野のステージにも勇んで出かける。教育(授業)や学生指導、同時に進行する複数の大型研究プロジェクト、企業との共同研究、論文や書籍の執筆……しかし、どんなに忙しくても、アウトリーチ活動を諦めない。理由はシンプルだ、「知ってほしいから」。計算機科学と物理学が出会った地平で今、起きていることを伝えたい。ある人はそこから新規研究のアイデアを生み出すかもしれない、またある人はビジネスへの実装を模索し始めるかもしれない、子どもたちに話して聞かせる人もいることだろう。多くの可能性の節点がつながれることで、世界と未来の最適解が導かれると信じている。

物理現象に計算させる、量子コンピュータという革命。

例えば各地を飛び回るビジネスマン。30都市を訪問して帰ってくる場合、どのような順番で回るのが最も効率よく(距離/コスト)移動できるのか――現在の計算機が音を上げるような問いに、量子コンピュータが鮮やかな最適解を示してくれるかもしれない。それも従来比、数億倍の速さで、だ。

量子コンピュータとはその名の通り、量子力学の原理を応用して演算する計算機のこと。この“夢のマシン”は1990年代から量子回路方式(ゲート方式)の開発が、世界中で展開されてきた。多くの壁を前に試行錯誤が続けられる中、思わぬ伏兵が頭角を現す。日本人研究者が発表した(門脇-西森の論文、1998)量子アニーリング方式に基づくコンピュータである。提唱者の西森秀稔氏(東京工業大学教授)は、大関准教授の師にあたる。さて、2011年D-Wave System社(カナダ)が発表した商用機は、多くの企業や大学が“様子見”を決め込む中、ロッキード・マーティン、NASA、Googleがいち早く導入し、量子効果により従来の計算よりも高速化が可能、との研究成果を報告し、社会に大きなインパクトを与えた。

量子アニーリングが得意とするのは冒頭の「巡回セールスマン問題」に代表される「組み合わせ最適化問題」である。さらに注視すべきは、「機械学習」「ディープラーニング」への応用である。これらは人工知能(AI)の開発を加速させる翼だ。

最先端の宿命、道なき道を行く。
待っているのは未来だ。

科学技術のトレンドに躍り出た量子アニーリング。世界中で研究開発レースが繰り広げられる一方で、ビジネスの現場では実データ解析、機械学習への展開が盛んに試みられている。日本における研究を先導するのが、若き精鋭・大関准教授だ。量子アニ―リングが最適化問題に特化したものであることは先に述べた。目下の課題は、使える分野と適さない分野を峻別する知見の蓄積だ。大関准教授はチームを率いて、未踏の領域に分け入るチャレンジングな研究を進める。

リーダーとして大切なことは、自由なフィールドでメンバーに能力と個性を生かし切ってもらうことだと断言する。アイデアはまず試してもらう。首尾よくいかなくても、オーライだ――よかった、経験値が増えたじゃないか――前に進む実行力こそ尊いと思う。

教壇に立つ身になり、自身の経験を重ね合わせる。イラストで表現した理科の答えを、褒めてくれたのは小学校の先生ではなかったか。いまいち“突き抜けられなかった”物理と数学、目を開かせてくれたのは予備校の講師ではなかったか…励まし鼓舞してくれた師たち。そんな存在でありたいと大関准教授は考える。先生とは「先に生きる者」なのだから。