日本人学生対象

経験者の声

Information

氏名 Name 成澤克麻 Katsuma Narisawa
学年 Grade 情報科学研究科修士2年 GSIS M2
指導教員 Supervisor 乾健太郎 Kentaro Inui
留学期間 Stay 平成25年8月-11月 Dec.- Jan., 2013
受入先 Destination University of Manchester

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NaCTeMの皆さん
NaCTeMの皆さん
Manchester Institute of Biology
Manchester Institute of Biology
Christmas Market
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最終日にやって日本人会
最終日にやって日本人会

はじめに

大学生活中にやっておいた方が良いことは何か?自分の周りの多くの先輩が、この問いに対して「留学をしておけば良かった」と答えていました。自分としても、海外は好きだし英語は話せるようにしておきたいし…と思っていたので、学部生の頃から留学にはずっと興味がありました。しかし、学部生時代はサークル活動が忙しく、サークル活動に一区切りつけた後も1年以上留学するとなると留年することになってしまい色々と不安が…といった理由で結局後回し後回しになり、結局、大学生活最後の1年を迎えてしまった、というのが僕の修士2年の春ごろの状況でした。同じような状況でいる方は多いのではないでしょうか。

このままでは大学生活が終わってしまうと感じた僕は、夏の数ヶ月間、海外のインターンシップにいこうと考えました。授業はもう全て取り終わっていたし、数ヶ月間なら特に卒業にも支障がなかったためです。言語処理系の研究をさせてくれるインターンで、何件か候補はありましたが、結局ネイティブの英語に触れたいという理由から、准教授の先生が過去に在籍したことがある、イギリスのマンチェスター大学の研究機関にいくことにしました。インターンと言いながら今回は情報技術スキルアッププログラムを利用させて頂きました。留学とインターンの違いは正直分かっていないですが、以下では留学と記載させて頂きます。

受け入れについては、准教授の先生が向こうの研究室の教授に高く評価されており、そして准教授の先生が僕のことを評価してくれていたため、准教授の先生が推薦文を送っただけですんなりとOKが出ました。本当にありがとうございます。(ただし、直前に自然言語処理のトップカンファレンスに論文を通していたことも理由の一つだったかもしれませんと一応述べておきます)

研究について

僕は東北大学で自然言語処理の研究をしています。自然言語処理といっても幅広いですが、僕の主なテーマは数量表現の意味理解です。マンチェスターでは、薬学系の論文を対象に、数つながりということで、薬学系のパラメータの抽出をするという研究をしていました。薬学の論文は毎年大量に出されており、それぞれの論文である薬についての実験結果が書かれています。こういった実験結果について、その利便性から、現在手作業で論文から情報を集めてデータベースを作るという取り組みが行われています。例えば「薬Aの阻害定数はx μmol/Lである」という情報を、いちいち論文を読まずともデータベースで検索すればすぐに得ることができます。しかし、手作業で常に更新される数多くの論文をチェックするのは、非常に大変な作業であり、現在こういったデータベースは有料でしか提供されていません。そこで、私の研究では論文から自動でこういった実験結果を抽出する手法を提案しています。

マンチェスターにきた当初は、研究のおよその方向性は決まっていたものの、具体的に何をすればいいのかはあまり提案されず、まずは薬学についてある程度勉強して研究の詳細を詰めて行くところから研究を始めました。自分の専攻とは全く関係ない薬学について勉強するのは、こんなことをしていていいのかと不安になったりもしましたが、結果的にはここで勉強した薬学の基礎が3ヶ月間役に立ったたので、最初に時間をかけて勉強して良かったと思いました。

研究の方向性を決めたら、次にタスクの定義と評価用データの作成を行いました。実際にどのような入力に対してどのような出力をすることを目指すかを詰めていかなければ、手法の提案もできません。今回の研究で一番時間がかかったのはこの点でした。というのも、薬学についてある程度勉強はしたものの、細かい部分で、例えばこの実験結果は重要な情報なのか、どのような形でデータベースに保存すればいいのか、といった点がやはり分からなかったためです。研究室には周りに薬学に詳しい人がおらず、また教授の紹介で薬学系の教授と連絡を取ることができたものの、薬学の方は我々ができること、つまり情報技術でできることについてよく分かっておらず、いまいち要領を得ない回答が返ってくる…という次第で、非常に苦労しました。情報技術について専門外な薬学の方には具体例を挙げながら、こういうことをしたら便利ではないか、そのためにここをどうしたらいいか教えて欲しい、と伝えて行くことが大事だと感じました。例を挙げずに抽象的な質問をすると、返ってくる質問も抽象的になってしまう、と心から痛感しました。評価用データの作成は大変な作業で、本当であればある程度僕が枠組みを決めた後は誰か外部の人を雇って作成してもらうというのが普通ですが、研究室の予算がなかったため結局僕がデータを作成することになり、多くの時間をここに費やしました。

データ作成と並行して、実際にシステムを作っていきました。プログラミングは好きなので、ここでシステムを実装している時間が一番楽しかったです。最初に単純な試作システムを作って問題を洗い出した後、より難しいシステムを作っていく予定でしたが、時間の都合上問題の分析をしただけで、より複雑な手法を用いることはできませんでした。しかし今回の成果(タスクの定義、問題の分析)は留学先の教授に喜んでもらえました。

マンチェスターの生活

基本的に日中は研究室に行き、夜は部屋で勉強し、休日はどこかに旅行に行く…という生活を送っていました。宿舎、英語、食事に関しては他の項目で書くとして、それ以外についてここで述べようと思います。

観光に関しては、マンチェスター大学のInternational Societyという団体が、格安で毎週末旅行を企画してくれていたので、それに何度か参加しました。一人で参加しても、他の参加者と話せたりして楽しかったです。個人でも何度か旅行にいきました。国が違うとバスや鉄道の利用方法も分かり辛くて色々大変ですが、研究室のメンバーやその場その場で人に聞いたりしてなんとかやっていくことができました。やはり、普段から英語が通じるのは便利です。

生活について何かアドバイスをするとしたら、とにかく積極的に行動しよう、ということに尽きます。留学中積極的に行動したこと(例えば積極的に誰かに話しかけたり、何かのイベントに参加したり旅行にいったり)はどれも後から振り返って本当にやって良かったことだと思っていますし、逆に積極的になれなかったこと(英語に自信が無くて誰かと話すのを躊躇したり、休日にどこにもいかず部屋に引きこもったりしたこと)は、とにかく後悔しています。

宿舎について

むこうの方が手配してくれた学生用のフラットに住んでいました。5人でキッチン・リビングを共有し、個室は十分な広さ(6畳ほど)の個室が与えられました。全体では恐らく400人弱ほどが住む割と大きめなフラットで、スタッフも常駐している非常に良い場所だったと思います。東北大学のユニバーシティハウスに雰囲気は似ていると思います。

8月という中途半端な時期にいったので一緒に住んでいたメンバーは途中で何度か入れ替わりがありました。メンバーは基本的に自室にいることが多くて、正直そこまで仲良くはなれなかったとは感じていますが、たまにリビングで一緒にご飯を食べたり、メンバーの誕生日パーティーをしたり、色々と楽しかったです。深夜に部屋の前でうるさくされたり、キッチンを汚く使われたり、その程度のちょっとしたトラブルがあったりもしましたが、そういう時に「主張すべきことはちゃんと主張すべきである」ということを学べたりもしました。メンバーは留学生が多くて国際色が豊かでもあったので(イギリス、ドイツ、アラブ系、ギリシャ、中国の人たちでした)それぞれの個性が見れて面白かったです。

英語に関して

あまり自信がない状態での留学でした。留学当初は、一対一であればなんとか会話はできるけれど、大人数での会話にはほとんどついていけないという状態でした。

英語について強く思ったのは、留学に来てもただただ日常生活を送っているだけでは伸びないということ、逆に意識を高くもっていれば、生の英語に触れられる分伸びやすいということです。留学していた前半の頃は、毎日分からない単語・フレーズがあったらその場でメモして、それを夜に復習して、翌日からはそれを問題なく言えるようにする…という作業を繰り返していました。地味で大変な作業ですが、これを繰り返していた頃は本当に英語力が伸びたと感じています。逆に、留学の後半は正直少しダレてしまって、こういった作業をやらなくなり、ただ毎日知っている単語で誰かと話すだけになってしまい、英語力は伸びなかったなと感じています。

ちなみにマンチェスター大学のInternational Societyでは格安の語学学校が開かれています。何度か参加してみましたが、先生がボランティアの学生なのであまり授業のクオリティは高くないものの、他の生徒と交流できるという面で有意義でした。

食事に関して

食事に関しては、よく「イギリスは食べ物がマズい」と言われますが、個人的には「安くて美味しい食べ物が少ない」だと感じました。日本円で1200円〜くらい払えば、それなりに美味しいものに出会えると思います。ただし毎食そんなお金をかけられるはずもなく、結局「食べるものがない」という状態に陥りました。そのため、僕は日本では朝ご飯くらいしか自炊しませんが、イギリスでは3食自炊(昼は弁当)していました。自炊する分には問題なく美味しいものが作れると思います。ちなみに僕は日本から炊飯器を持っていきました。ライスクッカーはイギリスでも売られていましたが(しかも1500円くらいで安かったです)、良い炊飯器でご飯炊きたかったので…。炊飯器を持って行く際は変圧器も忘れないようにしましょう。僕は最初変圧器を忘れてしまったので、現地の日本人の方から譲ってもらえるまで結局鍋でご飯を炊いていました。

色々書いてみましたが、あくまで個人の感想です。周りでは食に困っていない日本人もたくさんいました。自分の家・キャンパスの周りに美味しい店が少なかった/見つけられなかった、というのもあったかもしれません。あと良いスーパーが近くにあるかどうかは、日本と同様に非常に大事だと思います。

ちなみにマンチェスターには日本食材を売っているお店が何軒かあるので、日本食も十分作れます。ただし、値段は日本の1.5〜3倍程度です。自分は留学中に一度日本に帰って来たので、その時にうどんやカレーといった食材はまとめて買って持っていきました。

おわりに

今回の留学で一番に感じたことは、日本以外の国の人達との同じ部分、違う部分です。様々な場面で、こういうところは日本でも日本以外でも同じなのだなと感じたり、逆にここは日本と全然違うのだなと感じたりしました。それは当然のことではあるのですが、それを自分の体で実感できたことは、大きな収穫だったように思います。

また、いわゆる「留学で得たこと」とはちょっと毛色が違うかもしれませんが、自分では大きく変わったと感じる点を2つ述べさせて頂きます。一つは優しさを発揮することに躊躇しなくなったことです。イギリスでは先頭のドアを開けたら次の人が来るまで待ってあげたり、バスで高齢の方が来たら当然のように席を譲っていたり、イギリスだからなのかは分かりませんが紳士的な優しさが根付いているように感じました。また、研究室を始めとして自分の周りの人達は英語が十分に喋れない自分に本当に優しくしてくれて、そういった意味でも自分も困っている人にはとにかく優しくしよう、と思いました。日本に帰って来てからも、周りを気遣える力が上がったように(自分は)感じています。

もう一つは、笑顔で感謝する機会が増えた、ということです。イギリスではちょっとスーパーで買い物した時でも、レジの人と少し会話をして最後は笑顔で「ありがとう」と言って終わりますし、それ以外にもドアを開けてあげたときなど、とにかく相手の目を見て笑顔で「ありがとう」という機会が多かったように思います。日本だと、むしろ少し申し訳なさそうにしながら「すいません」と言ったり、また無言でいることも多いような気がしますが、そういうイギリスの文化は素敵だと思いました。なので、日本でもできるだけ笑顔で、感謝を伝えるようにしています。

少し毛色が違うことを書いてしまいましたが、英語力が向上したことや、欧米の研究スタイルに触れられたことももちろん収穫でした。とにかくあっというまの三ヶ月間でした。最後になってしまいましたが、このような貴重な体験をさせてくれた今回のスキルアッププログラム、様々な手続きをして頂いた森山先生、岡崎先生、暖かく研究を見守ってくれたNaCTeMの皆さん、本当にありがとうございました。この文章を読んだ方が、少しでも留学に前向きになってくれること、そして良い留学生活を送られることを祈ります。

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