日本人学生対象

経験者の声

Information

氏名 Name 小林健悟 Kengo Kobayashi
学年 Grade 工学研究科修士2年 ECEI M2
指導教員 Supervisor 尾辻泰一 Taiichi Otsuji
留学期間 Stay 平成25年7月1日-8月31日 Jul. 1st-Aug. 31th, 2013
受入先 Destination Massachusetts Institute of Technology

留学体験記

私は2013年7月1日から8月31日までアメリカ合衆国のマサチューセッツ工科大学(MIT)に短期留学しました。本体験記では今後留学される方の参考のために、留学中に体験したことを書きたいと思います。

マサチューセッツ工科大学
マサチューセッツ工科大学

留学を思い立ったきっかけ

今回の留学以前に、短期留学を経験していたことが大きなきっかけになったと思います。2012年の10月から11月にかけて1か月半フランスに短期留学しました。慣れない環境で研究を行う中で苦労することも多くありましたが、留学を通して自分自身の成長を確かに感じることができました。さらなる成長のためもう1度留学したいと考えていたところ、指導教員の尾辻先生からJASSOの「情報技術スキルアッププログラム」による留学支援のお話を聞き、2度目の留学を決意しました。

留学の準備(受入れ教員とのやり取り,宿舎の選定など)

留学先の選定

留学先を選ぶにあたって重視したのは、当時行っていた研究をさらに発展させられるかということです。その中で、研究分野の第一人者であり指導教員とのつながりもあるMITのTomas Palacios准教授の研究室を留学先に選びました。受入れ先とのやり取りは主に指導教員を通して行い、スムーズに受入れが決まりました。

ビザの取得

アメリカの大学に滞在して研究を行う場合、J1ビザ(交流訪問者ビザ)を取得する必要があります。J1ビザを取得するための通常の流れは、まず受入れ先からDS2019という書類を発行してもらい、その上でビザ取得のための面接を予約し、実際に面接を受け、審査合格後にビザが届くということになります。通常は遅くとも渡航3か月前ビザの申請を行うものですが、今回は受入れ先決定から渡航まで1か月半程度しかなかったため例外的な方法をとりました。このことについて少し詳しく書きたいと思います。

まず、DS2019を発行してもらうためMITに申請を行いました。MITではJ1ビザの申請はiMITというweb上で行うようになっており、DS2019発行に必要な情報(パスポート情報、住所、費用の出所、受入れ先からのInvited letter等)を入力していきます。全ての項目が完了すると発行の手続きが行われますが、これにはかなり時間がかかるので、今回はDS2019の発行を待たずに面接の予約を行いました。

滞在のプログラム開始日まで1か月を切ってもDS2019が届いていない場合はDS2019なしで面接を受けることができます(米国政府の公式ビザ情報サイトにも明記されている)。今回はこの制度を利用することにしました。面接を予約するにあたっては大使館に電話で方法を問い合わせ(3回)、丁寧に教えていただきました。DS2019なしでも無事面接を予約することができました。DS2019に関しては面接の際に、面接を担当する領事に説明するようにと言われました。面接を予約するには、DS160の作成やSEVIS feeの支払い(ただし今回はDS2019取得後)をする必要があります。

ビザ取得の面接は米国の大使館または領事館で行われます。仙台から最も行きやすいのは東京の赤坂にある米国大使館です。面接当日はパスポート、DS2019(今回は無し)、SEVIS fee支払い証明(今回は無し)、Financial Supportの証明、銀行口座の残高証明等提出します。面接は、就職面接のようなものとは違い、銀行にあるようなカウンター越しに入国審査で聞かれるような内容を質問されるという簡単なものでした(日本語でも可)。面接官の領事に“Interview is fine!”と言っていただき、最後にDS2019が手元に届いたらこれを使って大使館に送るようにとレターパックを渡され面接が終わりました。ちなみにパスポートは大使館に預かられます。

面接終了後、数日してDS2019がMITから送られてきました(6月23日)。当日中にSEVIS feeを支払い、大使館に郵送しました。そして渡航2日前の6月29日にJ1ビザが貼られたパスポートが自宅に届き、ビザ取得のための手続きが無事完了となりました。

今回の経験から、アメリカに留学をされる方は十分に時間の余裕をもってビザ取得の手続きをされることを強くおすすめいたします。

宿泊・航空券の手配

MITでは正規の学生は寮を利用することができますが、J1ビザで滞在する“Visiting Student”の身分の学生は寮を利用できないため、宿舎を自分で手配する必要がありました。宿舎の候補はアパート、ホームステイ、サブレット(部屋の又貸し。アメリカの学生では一般的なことらしい)、ホテル等が考えられます。アパートは、ボストンは家賃が非常に高く、1年単位でしか借りられないところが多いため、断念しました。ホームステイとサブレットは日本にいながら探すのは困難でした。よって今回はB&B(ベッド&ブレークファースト。日本でいう民宿のようなもの)に滞在することに決めました。このB&Bは現地の日本人の方が経営しており、MITまで地下鉄1本で行けるところが魅力です。

航空券に関しても自分で手配しました。日本からMITのあるボストンへは成田空港からJALの直行便が出ていますが、今回は運賃と乗り換えの時間等加味してシカゴ経由のUnited航空の便を選択しました。予約はUnited航空のホームページを通じて行いました。支払いは以前にフランスに留学をした際の経験から現金で行いました(渡航前にクレジットカードを使うと、利用可能残高の関係で渡航先でカードが使えなくなる)。

現地到着後の手続き

現地到着後、MITで最初にすることはISO(International Student Office)でのオリエンテーションでした。このとき必要な手続きについて教えてもらいます。そしてパスポートの写しやI94(米国出入国記録)をiMITにアップしました。次にResistrar’s Officeで学籍の登録を行い、Student IDを発行してもらいました。

オリエンテーションで指示があったため、Social Security Number(社会保障番号)の取得も行いました。Social Security Officeで申請後、2週間程度で郵送されてきました。

また大金を持っていることの不安から、滞在中にMIT構内のBank of Americaにて銀行口座を開設しました。口座は現在も維持しており、学会発表や旅行等でアメリカを訪れた際には重宝しています。

留学中の研究

留学先で行った研究内容は、日本で作製したGaN(窒化ガリウム)系デバイスの特性評価です。GaNは化合物半導体の一種であり、飽和電子速度、絶縁破壊電界、キャリア密度が大きいという特長があります。この特長から無線通信用の高周波デバイスや高電圧下で用いるパワーデバイスとしての応用が期待されています。このような理由から注目を集めているGaN系デバイスですが、チャネル中のゲート端部に電界が集中してしまい耐圧の低下や電流コラプス現象(電圧ストレスにより電流が減少してしまう現象)が生じてしまいます。この問題の解決のために電界集中を効率的に緩和できる傾斜型フィールドプレート構造を独自のプロセスにより作製し、通常のFET静特性や高周波特性の評価を進めていました。しかし日本の所属研究室には高電圧を印加できる設備が無いため、パワーデバイスとしての性能を評価することができていませんでした。このような理由から留学先ではデバイスの高電圧下での特性評価に的を絞って研究を行いました。研究を始めるにあたってはPalacios先生の研究室のDanielという学生にチューターになってもらい、測定装置の使い方などを教わりました。また実際の測定はPalacios先生やDanielと相談しながら進めていきました。

デバイスの高電圧測定として、パルスを用いた電流コラプス測定とオフ耐圧測定を行いました。電流コラプス測定では、電圧ストレスとしてパルスをゲート電極、ドレイン電極に印加し電流の低下を観察します。比較用に作製した通常構造のデバイスではパルスにより電流の大幅な減少が見られましたが、傾斜型フィールドプレート付きデバイスでは電流はほとんど減少しませんでした。またオフ耐圧測定では通常のデバイスに比べて傾斜型フィールドプレートデバイスでは66%の耐圧増加が確認されました。これらにより傾斜型フィールドプレートが効率的に電界を緩和できることが実験的に証明されました。

また測定中には実験室で一緒になった他の学生とたくさん話せたことも良い経験になったと思います。特にDanielは熱狂的な野球ファンで日本のプロ野球にも詳しいことから、よく話しました。

デバイス特性の評価以外にもシミュレーション実験も行おうと試みましたが、シミュレータを使用するための手続きに時間を取られてしまい、結果を得られなかったのは残念でした。

Danielとの写真
Danielとの写真
手続きでお世話になったDebbさん
手続きでお世話になったDebbさん

帰国後の研究成果の発展や研究成果発表

滞在が1か月を過ぎたころ、それまでに得られた結果を日本に報告すると指導教員の先生から国際学会に投稿しようという提案をしていただきました。実験の合間に原稿を作成、投稿して、無事アクセプトされました。発表は2013年12月11日から13日に米国ワシントンDC近郊のベセスダにて開催されたISDRSという会議で行いました。発表形式は口頭発表ということでしたが、2か月間アメリカにいたということもあり質疑応答での受け答えもしっかりできたと思います。またSolid-State Electronics誌のISDRS特集号に論文を投稿することもできました。

ワシントンDCにあるアメリカ合衆国議会議事堂
ワシントンDCにあるアメリカ合衆国議会議事堂

さらにMIT滞在中に得られた結果をまとめ、発展させたものをIEEE Electron Device Letters誌に投稿しようと計画しています。

留学中に触れた外国生活や文化(週末の旅行等)

ボストン日本人学生会

留学開始直後の7月4日はアメリカの独立記念日でした。独立記念日は祝日で大学等も休みとなります。また各都市でイベント等も開かれ、ボストンではコンサートと花火が行われました。当日はハーバード大学に留学中の友人の紹介でボストン日本人学生会というグループに参加させてもらい、一緒に食事と花火を楽しみました。独立記念日は「アメリカの誕生日」と呼ばれるだけあって、アメリカ中がお祭り騒ぎになって盛りあがった一日でした。

ボストン日本人学生会の皆さんとは独立記念日以外にも休日にColor Me Radというイベントに一緒に参加したり、公園で流しそうめんをしたり、バーに行ったりと、とても仲良くしていただきました。学生会のメンバーは自分よりも年下の人がほとんどでしたが、日本の同年代の学生と比べて皆しっかりしているように感じました。

アメリカ独立記念日
アメリカ独立記念日
Color Me Red
Color Me Red
流しそうめん
流しそうめん

ボストン観光

ボストンは独立13州の1つであるマサチューセッツ州にあり、アメリカの中では歴史が古い街です。したがって独立に関係する史跡をはじめ観光スポットが多くあり、休日等を利用して歩きまわりました。中でもボストンのダウンタウンを中心に独立戦争にまつわる史跡を16か所つないだフリーダムトレイル(全長4キロ)を寄り道をしながらサンダルで歩ききり、最後のバンカーヒル記念塔を登った後しばらく動けなくなったのが印象的です。また、市内にあるボストン美術館はMITの学生証を提示すると無料で入れることもあり、2回ほど足を運びました。

フリーダムトレイルの終着地点バンカーヒル記念塔
フリーダムトレイルの終着地点バンカーヒル記念塔
ボストン美術館
ボストン美術館

またボストンは2013年のワールドチャンピオンであるボストンレッドソックスの本拠地です。私は大の野球ファンなので、もちろん観戦に行きました。観戦はレイズ戦とマリナーズ戦の2回行きましたが、印象的だったのはマリナーズ戦です。マリナーズの先発は岩隈投手(事前に調査してこの試合を選んだ)でした。試合は拮抗した展開で延長15回までもつれ、最後はレッドソックスのサヨナラ勝ちとなりました。試合途中でレッドソックスの田沢投手、上原投手も登板し、大満足の試合内容でした。

レッドソックス観戦
レッドソックス観戦

州外への旅行

週末を使ってニューヨークとナイアガラの滝に観光に行きました。ニューヨークへの移動は高速バスを利用しました。移動は片道4時間半程度ですが運賃は往復40ドルで、日本と比べ格安です。ニューヨークでの滞在は1泊2日だけでしたが、タイムズスクエア、メトロポリタン美術館、自由の女神像、ウォールストリートなど多くの観光スポットを訪れることができました。

タイムズスクエア
タイムズスクエア

また別の週末にはナイアガラの滝を観光しました。同時期に同じ研究室の栗田くんと小嶋くんがナイアガラの滝のすぐ近くのバッファローという街に滞在していたため、2人と連絡を取り、一緒にMITに留学していた江藤くんも含めた4人で観光に行きました。行く前はナイアガラの滝は大自然の中にあるというイメージでしたが、滝の周囲は観光地化されていてカジノなどもあり、とても賑やかな場所でした。それでもやはり滝は巨大で圧倒されてしまいました。また、観光の途中にはカナダへの入国もしました。ナイアガラの滝はアメリカとカナダの境にあるため、アメリカからもカナダからも見ることができます。しかしカナダ側からは滝を正面から見ることができ、滝の雄大さをより感じることができました。留学中に国外へ出る際はISOの署名が付いたDS2019を携帯する必要がありますが、事前にしっかり準備していたため、カナダ入国、アメリカ再入国共にスムーズに行うことができました。

ナイアガラの滝(カナダ側)
ナイアガラの滝(カナダ側)

食生活

留学中は出費を抑えるため基本的に自炊でした。滞在したB&Bには炊飯器がありスーパーでカリフォルニア米(普通にうまい)を手に入れることができたため、留学中にも毎日ご飯を食べることができました。ボストンには日本の食材や調味料を売るスーパーもいくつかあるため便利でした。

また、せっかくの海外での生活なので外食も何度も行きました。アメリカといえばまずはハンバーガーが思い浮かびますが、多くの移民が暮らす国のためメキシカン、イタリアン、中華、和食など様々な国の料理を食べることができます。この中でも滞在中にはメキシカンによく行きました。メキシコ料理といえばタコスやブリトーが有名ですが、最近ではブリトーボウルという丼のような料理が人気になっているようです。メキシコ料理は日本人の口に合うと思うのでおすすめです。またボストンはロブスターが名物の1つで、それを使ったロブスターサンドはとてもおいしかったです。

ブリトーボウル
ブリトーボウル
中華料理
中華料理
ロブスターサンドとクラムチャウダー
ロブスターサンドとクラムチャウダー

留学により得たもの

今回の留学は大変有意義なものとなりました。滞在中に行った実験から貴重なデータが多く得られ、留学前から行っていた研究が大きく進展したと思います。またそこから得られた結果をまとめ、さらに発展させることにより国際学会での発表や論文投稿も経験することができました。

滞在中には多くの人と交流することができました。アメリカには様々なバックグラウンドをもつ人がいます。また言語も英語だけでなく、スペイン語や中国語なども使われています。さらにMITにはたくさんの留学生がいます。このような理由で留学開始直後はなかなか自分からコミュニケーションをとることができませんでした。しかしこちらの拙い英語にも親切に耳を傾けてくれることにだんだん気づき、次第に自分からも話せるようになっていきました。たくさんの人と話したり異国の文化の中で生活することで、視野が広がり物事をたくさんの角度から考えられるようになるなど、自身の成長に大きくつながったと思います。

今回の留学では大きな研究成果が得られただけでなく、海外で生活することの楽しさや大変さを感じることができました。さらにそこから日本にいてはわからない日本の良いところ、悪いところにも気づけたと思います。これからはより一層グローバル化が進んでいくというようなことをよく耳にします。完全に個人的な意見ですが、グローバル化した時代に日本を支えていくのは日本人の心を持ち、海外のことをよく知るような人材だと思います。そのような人材に近づくチャンスとして留学は非常に良い機会だと思います。少しでも留学に興味のある方にはぜひ挑戦してもらいたいと思います。

最後に今回の留学においてサポートしていただいた、Palacios先生、尾辻先生、末光先生、森山先生、Daniel、一緒に滞在した江藤くんをはじめとするたくさんの方にこの場をお借りしてお礼申し上げます。

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