東北大学大学院 情報科学研究科

東北大学大学院情報科学研究科シンポジウム
「情報科学」から「行動の因果」を考える Q&A

講演1自分らしさを構成するゲノム に関するQ&A

回答:木下賢吾 教授(応用情報科学専攻 応用生命情報学)

  • 遺伝子からもたらされる現象は、ある単一の原因になる遺伝子によるものか、ある遺伝子と遺伝子の関係性、複雑性によるものなのか?関係とすれば解明することは可能なのか?(30代、男性)
  • 「遺伝子からもたらされる現象」にも様々なものがありますが、単一の原因遺伝子によるもあれば、複数の遺伝子によるものもあります。例えば、単一遺伝子疾患と呼ばれる一連の疾患は、一つの遺伝子への変異だけで疾患を発症することが知られています。一方、講演で示した身長の例や糖尿病などの多因子疾患のように多くの遺伝子が複雑に関係し合うことで現象が産み出されることもあります。後者の関係性や複雑性はご指摘の通り解明の難しい課題で、現在精力的に研究がなされている課題です。
  • 最近「出生前診断によって産まれていくる子供が遺伝的疾患を持っている可能性が分かる」やさらにそこから発展して「親が望む形質を受け継いだ『デザイナーズベイビー』が可能になるかもしれない」という話を聞きますが、先ほどの身長の例のようにいろいろな場所にあるゲノム情報が関与する遺伝について、現状で、そして将来的にどの程度の正確性で出生前診断やデザイナーズベイビーが可能になるでしょうか?(20代、男性)
  • 「正確性」に関しては非常に難しいですが、単一の遺伝子で決まる疾患はかなりの正確性を持って出生診断が可能になる未来は近いと思います。一方、デザイナーズベイビーに関しては、倫理的な課題をクリア出来たとしても、技術的な課題は多く正確なデザインは困難だと思います。ちなみに、デザイナーズベイビーに関しては、GATACAという古いですが多くの事を考えるきっかけになるSF映画がありますので、時間があれば是非見て頂ければと思います。
  • データ数を増やしたところで良い結果は得られるのでしょうか?要因となる者が多すぎて実際に分かることがあまり無いのでは?(10代、男性)
  • ビッグデータという言葉を聞いたことがあるかと思いますが、データの量が増えることで初めて解明される現象は多く、データの量が持つ可能性は大きいことが近年広く認識されています。特に、複雑な現象ほど、必要となるデータは多くなる傾向がありますが、ビッグデータの持つ力は大きいと考えられています。講演でお話ししたゲノム科学は、生命ビッグデータの一つに過ぎませんが、現在生命ビッグデータは急激な勢いで増えており、要因が多い生命現象でも、これら生命ビッグデータの解析により急激に理解が深まっていくと思います。
  • ゲノムというのは、産まれたときには持っていて、その人の特徴や病気の成りやすさなどを決めている者であると理解したのですが、そのゲノムというのは一度構築されたら絶対に変化しない者なのでしょうか?成長と共に病気の成りやすさなどが変化したりはしないでしょうか?(20代、男性)
  • ヒトは60兆個の細胞を持っていますが、元は1つの卵子と精子から分裂してできたものです。分裂の際のゲノム情報のコピーは正確ですが、非常にまれに間違えることもあることが知られていますし、その結果として癌などの疾患を引き起こすことも知られています。その観点では、絶対に変化しないものではありません。また、最近は生活習慣等により、ゲノムに可逆的な変化(メチル化)が起こることが知られていますが、これらの変化により遺伝子のOnOffが変わることもあり、現在精力的に研究が進められている現象です。