第54回情報科学談話会
日 時: 平成26年7月24日(木) 17時〜19時
場 所: 情報科学研究科棟2階 大講義室
話 題: 火について −プルトニウムをめぐる形而上学的余談−
話題提供者: 森 一郎 教授
(人間社会情報科学専攻 人間情報学講座 人間情報哲学分野)
概 要:
森先生は、まず古代ギリシャ哲学の4大元素である土、水、空気、火について、生成消滅を繰り返すものとしての性質を話され、そのなかでも火を万物の原理としたヘラクレイトスを取り上げ、そこからお話をふくらませていきました。
1.ヘラクレイトスの火─かまどの逸話、と題されたお話では、地上界の自然的なあるがままのものとは異なる火を、日常のなかに囲い込むのが「かまど」だということです。火を操るためには高度な技術が必要で、土や空気や水によって火をを使いこなすわけです。
2.プロメテウスの火─暖炉という文化、というお話では、プロメテウスが神の火を人類にもたらしたという神話にあるように、火を燃やすことは神聖な行為であり、そのために技術の粋としての暖炉が人間生活の中心になった、ということです。東京女子大学キャンパスにある建物群の暖炉を多数紹介しながら、土で火を囲い、空気を取り入れ、消火のために水を用意する中で、人間は燃える暖炉に親近感を持ち、火を生活に必須のものとしてきました。
3.プルトンの火─原子炉の劫火、では、原子炉が超特大の「かまど」としてプルトニウム239という「不死のもの」を生み出すということ、それが死すべきものとしての人間にとって永遠に存在し続ける「不死のたたり」として人間を脅かしている、と話されました。後代にわたってこの「劫火」をどのように囲い込むのか、が人類にとって重大な課題となっています。
森先生のお話は、古代ギリシャ哲学をわかりやすく読み解くとともに、原発事故という今日的な深刻な社会問題や人類文明のあり方を根本から問い直そうと促すもので、さまざまな事柄を改めて考えるきっかけとなる有意義なものでした。質疑応答が終了した後も、飲み物や茶菓子を取りながら交談が続き、おもわず時間を少しオーバーしてしまいました。
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