5Gから6Gへの世代更新によって、
キャパシティとカバレッジの拡大を。
1980年代に登場した1G(第1世代)に始まり、現在の5G(第5世代)に至るまで、ほぼ10年ごとに次の世代へと発展を続けてきた移動通信システム。最大通信速度はこの40年間で約100万倍に高速化し、音声伝達のみだった40年前から、現在では高精細動画の伝送も可能となっている。そうした中、総務省が主導する「Beyond5G推進戦略」のもと、2030年頃からの普及を目指し、6G(第6世代)に向けた研究開発が官民連携で取り組まれている。
「5Gから6Gへの世代更新の意義は、新たな周波数(ミリ波/テラヘルツ波等)の本格的な活用による通信キャパシティのさらなる拡大、そして、通信のつながりにくかったエリアへのカバレッジの拡大にある」と話すのは、東北大学大学院情報科学研究科で情報基礎科学を専攻する川本雄一教授である。
川本教授の研究室では、通信プロトコルの構築に関する理論的アプローチを中心に据え、高性能かつ高信頼な通信の実現を目指し、通信環境における課題の解析や解決手法の提案を行っている。「6Gに向けては、①地球全体にカバレッジを広げる大規模な衛星通信ネットワーク、②障害物の影響を受けない通信ネットワーク実現のためのIRS(Intelligent Reflecting Surface/知能電波反射面)の活用、③Multi-AP連携(複数のアクセスポイントが情報を共有しながら協調して通信を実行)を活用した次世代無線LAN、を主要テーマとして研究を展開しているところです」。
進化する技術を積極的に活用し、
6Gに向けた課題の解決を図る。
地上に設置した基地局中心の通信ネットワークによって、日本国内の人口でのカバー率はすでに100%近くなっているという。一方、土地面積から見ると、山間部や離島、海上など、つながらない場所もまだ残る。「現在の地上中心のネットワークを補完する手段として、高度600km程度の軌道を飛ぶ通信衛星を活用したネットワークや、成層圏に無人航空機を飛ばし基地局として利用するHAPS(High Altitude Platform Station)に注目している」と話す川本教授。「システム間の周波数共有、衛星ネットワーク特有の遅延時間といった課題を解決し、衛星通信ネットワークと地上ネットワークとが相互に作用し協調するような、地上・空・宇宙を統合したネットワークの実現が私たちの目標です」。
6Gでは、100GHz以上の超高周波数帯域であるテラヘルツ波を活用することで、超高速・大容量通信の実現を目指すとされている。ここで課題となるのが、直進性が高く、遮蔽物に弱いというテラヘルツ波の特性である。この課題解決のため、川本教授のグループが取り組んでいるのがIRSを利用した通信ネットワークだ。「IRSは多数の受動反射素子で構成される電磁波反射体です。それぞれの素子の反射特性を適切に変更し、障害物を迂回した電波伝搬ルートを確保する『IRS融合型通信システム』の実現に向け、基礎理論の構築や通信制御アルゴリズムの開発、さらには実機開発や実証試験にも取り組んでいます」。
Wi-Fiなどで利用される無線LANの分野では、「さらに高速で安定した通信の実現が課題」と話す川本教授。その解決のために取り組んでいるのが、Multi-AP連携を活用した次世代の無線LANである。「複数の通信機器を協調して制御することにより、単独のAP制御では成し得ない大容量の通信が可能になります。急速に進化する無線LAN通信規格の動向にも目を配りながら、高速で安定した通信を支える基盤技術の創出を図ること。それが私たちの目標です」。
5Gから6Gへの進化にあたっての課題の一つが、電力消費の低減である。「通信ネットワークは莫大な電力を使います。一言で言えば、あまりエコではない。エネルギー効率を考慮したネットワークの実現などを通して、持続可能な社会の実現にも寄与できればと考えています」。
研究の楽しさや醍醐味は、
テーマの継続的なアップデートにある。
現在研究を進めている3本の柱に加え、新たな研究テーマとして考えているのが「V2X(車車間・路車間通信)」の研究である。「これは、今後の研究室の規模拡大を想定し、新たに立ち上げる研究テーマの一つ」と川本教授は言う。「通信衛星ネットワークやHAPS、そしてIRSもまたしかり、技術分野での進化を取り入れることで、私たちの研究は発展していきます。新たな技術の登場、産業界のニーズや世の中の動きもしっかりとウォッチしながら新しいテーマにも積極的に取り組んでいく。研究テーマを継続的にアップデートしていくことが何より重要であり、それが研究の楽しさ、醍醐味につながるのではないでしょうか」。
川本教授は、東北大学工学部情報知能システム総合学科(現・電気情報物理工学科)の4年次、情報科学研究科の加藤寧教授が主宰する情報通信技術論研究室(加藤研究室)を選択した。「私自身は、『将来の夢は?』と聞かれると困ってしまうタイプの人間で、研究室を選ぶ時も、『こういう研究がしたい』という何かしらの思いがあったわけではありません。加藤研究室を選んだのは、研究に対するアグレッシブさはもちろん、駅伝大会や球技大会などにも研究室が一丸となって取り組むチーム感に惹かれたから。加藤研究室から独立し、自分の研究室を持ったいま、アグレッシブさやチーム感といった加藤研究室の文化を受け継ぎつつ、学生の主体性を大切にした研究室運営を行っていきたいと考えています」。
「同じ大学院でも、歴史と伝統のある工学研究科に比べ、情報科学研究科は柔軟で自由度が高いという印象がある」と話す川本教授。「工学系だけでなく、理学、さらには人文・社会科学系の研究者など、さまざまなバックグラウンドを持つ研究者が一つの組織のもとにある、というのが情報科学研究科の特色であり、魅力です。他分野の研究者との交流の中から、新しい発想が生まれる、そんな可能性にも期待しています」。